【中編】人口700人の山村を、がけっぷちから地方創生の成功事例へ

さとゆめ
<前編のあらすじ>
さとゆめ嶋田氏は、「もっと地域に寄り添う伴走型コンサルティングをやってみたい」と一念発起し、『株式会社さとゆめ』を2013年5月に旗揚げ、程なく小菅村との出会いが始まる。最初の相談は、小菅村待望の「道の駅」オープンが間近に迫り、大急ぎでレストラン運営を確立させることだった。嶋田氏は「源流レストラン 道の駅こすげ」と称し、地元食材を使ったメニューを開発して、首都圏からの若者のニーズを捉え、安定経営を実現させた。

「3分の1村民」「2分の1村民」の発想

 「道の駅 こすげ」の成功で、舩木村長の信頼を得た嶋田氏、2015年に入ると舩木村長からのさらなる「依頼」が舞い込んだ。
「消滅自治体」の危機からの脱却プラン「地方創生総合戦略」を策定中なので、サポートしてほしい、との内容で、何事もポジティブに取り組む嶋田氏は快諾する。「現在の『人口700人』を維持することが主眼で、重要な考え方は『分数村民制度』で、一般化し始めた『関係人口』と意味は似ていますが、この言葉が登場する前ですので、かなり画期的なアイデアです」と嶋田氏は強調、さらに続ける。

 「例えば、定住者が『1分の1村民』だとすれば、リピーターの観光客は『3分の1村民』、村づくりに協力するサポーターは『「2分の1村民』という発想です。人口減・高齢化を食い止めたい気持ちは分かりますが、いきなり『村に住んでほしい』と迫っても、相手はかえって引いてしまいます。『3分の1村民』『2分の1村民』とレベルアップし、サポーターの方々の中からたとえ1000分の1の割合でも『1分の1村民』が誕生すれば大成功です」

村が100%出資の「株式会社源」を設立

 地方創生総合戦略に基づき、まずは「3分の1村民」の数をアップさせる施策として、村の主要な観光施設である、「道の駅」や温泉施設、アスッレチック施設「フォレスト・アドベンチャー」が要になるという見立てをした。
 しかし、全て村役場の直営や3セクがバラバラに運営しているため、固定費がそれぞれで発生し大赤字の状態だった。「民営化しなければムリで、3施設を一体的に運営する企業の設立を提言して総合戦略に盛り込み、2017年に小菅村が100%出資の流域DMO(観光地づくり法人)『株式会社源』を発足させました」

 この他にも嶋田氏は、小菅村の情報発信を展開するWebサイト「こ、こすげぇー」の構築や(2017年3月ローンチ)、小菅村独自のポイント・カードの開発(2018年5月運用開始)なども支援。まさに息つく暇がないほどだ。
 村長、村役場、住民、そしてさとゆめが一体となってのがむしゃらぶりが功を奏してか、村の観光客数は2014~2018年の5年間で約8万人から約18万人と2倍以上に増加。もちろん県内トップの増加率だ。同時にこの間に22世帯・75人の子育て世代も転入し、小学校の児童数も22人から36人に増えたという。
「少しずつですが、いい風が吹き始めました」 と嶋田氏は喜びを隠せない。

「700人の村がひとつのホテルに」チャンスあり


 だが、観光客の9割以上が日帰り・通過客で、客単価の高い宿泊者は8%足らず。村への経済効果はイマイチだった。「宿泊者なら1人当たり1万円単位で地元にお金を落としてくれますが、日帰り・立ち寄り型ではせいぜい数千円です。また宿泊してもらわなければ村のよさもなかなか伝えられず、リピーターも望めません」こうした理由から、嶋田氏はホテル事業に取り組むことを決意する。
 当時、小菅村には宿泊施設が4軒ほどあったが、渓流釣り客向けや小中学生の合宿用のものが多く、「お洒落」な設えではない。既存の宿泊施設に、観光客のボリュームゾーンである夫婦やカップルをターゲットとした「お洒落」な部屋をつくってもらう働きかけもしたが、オーナー達は皆高齢。「もうそんなに頑張れないよ」と消極的。

 「中でも、地方創生総合戦略にも記載していた『古民家の有効活用』に着目し、『大家』と親しまれる築150年超の合掌造りの旧家をリニューアルしました。都会の若者が価値を感じられるよう、お洒落に改装し、客単価を上げて小菅村の経済に貢献させます。しっかりと料金をいただき、若い人がちゃんと働ける宿泊施設であるべきで、ちゃんと儲からなければ長続きしません。」と、嶋田氏は持論を展開する。

 そこで、丹波篠山(京都府)などで古民家を若者向けのカフェやホテルにリニューアル、注目を集めていた株式会社NOTEに協力を要請しました。また、旅行業法が近々改訂され、ホテル棟ごとにフロントを置かない「分散型ホテル」が」も解禁、との朗報も舞い込む。これをチャンスと捉えた嶋田氏は、村内に散在する古民家をそれぞれ離れた客室と位置付けた「700人の村がひとつのホテルに」の実現に動き出すのである。

 しかし、構想が決まったものの、今度は『誰が運営するのか』という壁にぶち当たる。当初は村の若い人間が名乗りを挙げるのでは、と期待していた嶋田氏。だが、期待も空しく1年たってもなしのつぶてで、段々と『無理では』という雰囲気が周囲に漂い始める始末。「宿泊客が増え地元が潤い、ちゃんと若者が働き甲斐を感じられる職場ができ、家族ができ、村の人口も増えていく、という好循環が生まれなければ、地方創生総合戦略で掲げた理念は水の泡になってしまいます」と嶋田氏は強調、最終的にホテル事業の経営責任者として自ら手を挙げる。

地域とともに組織を作る ホテル経営が成功

「これだけ関わってきたので、小菅村の案件は何が何でも成功事例にしたい、という意地もありました」
「伴走型」と銘打ちながら、自らが経営トップとなり事業の責任まで担うことを選んでしまうのだが、嶋田氏はこう説明する。「現在、地域には、経営人材やマネジメント人材は非常に足りません。事業運営は人間を集めただけではダメです。翻って『伴走型』とは、本来こうした人間を支援するものですが、伴走すべき人間がいないというフェーズが訪れるのが実状です」

 トップが決まれば、次は事業を動かす組織づくり。さとゆめ、NOTE、源3社が共同出資したSPC(特別目的会社)「株式会社EDDGE(エッジ)」を新設し、嶋田氏が正式に代表取締役社長に就任した。
「『伴走』がテーマですが、地域とともに組織を作ることも私たちの守備範囲です」

 「大家」を改装したホテル「NIPPONIA 小菅 源流の村」は2019年8月にオープン、客室は4室、計10名が宿泊可能。
翌2020年8月には古民家2棟の「崖の家」、も加わり、現在計4棟・計6室、宿泊人数約15名へと拡大、レストラン(22席)も併設されている。気になる料金だが、1人1泊3万円~4万円。
「稼働率4割でペイするモデルです。初年度は同30%、2年目から40%に達し、現在は計画以上で推移しています。コロナ禍で心配でしたが、昨年8月~今年1月はずっと満室が続くほど好調で、現在は緊急事態宣言の影響で若干下がっているものの、依然として高い稼働率を維持しています」と嶋田氏は自信を漲らせる。
「今後も古民家を1件ずつホテルに改装していく予定です。『地域運営型』を取り入れ、外部からスタッフ4名を採用した以外は、地域のおじいちゃん、おばあちゃんが、送迎やガイド、生け花や清掃などパートタイムで手伝ってくれています」

 地域伴走は、地域に雇用を生み出し、地域経済圏を構築し、地域で働く皆を笑顔にする取り組みです。そして、嶋田氏が仕掛けたホテル事業は、やがて大手鉄道会社の目に留まり、事業のコラボへと発展していくのである。


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