【中編】「せとうちDMO」で観光産業を牽引する、『新社長 井坂氏』の構想とは? 

前編に続き、せとうちDMOで株式会社瀬戸内ブランドコーポレーション(SBC)の代表取締役 井坂氏に今後の”目指す観光の未来”について語っていただいた。多くの資源に恵まれた「瀬戸内」を、どのように想い、これからの「瀬戸内」を作り出そうとしているのか。

尾道市の外資系ホテル誘致を支援

SBCの実績について、井坂氏に振り返って頂いた。
「5年間の実績としては、まず資金支援については、新しい宿泊型の船舶の建造や、旅館・ホテルの新築など、数十億円のファンド投資をすでに完了しています。一方、経営支援については、想定していた個別事業者だけでなく、地域の自治体からの依頼も増えてきています」
と、最近は予期せぬ変化も。そしてその理由について、こう分析して見せる。

「地域経済の再生に取り組む自治体にとって、『観光』という切り口が非常に地域色を出しやすいからでしょう。しかし、観光のプロモーションだけでなく、地域のコンテンツをしっかりと揃えていなければならない、ということが、ここ数年の間に浸透してきています。つまり、まちづくりと一緒で、まちを観光地に変身させるには、プロモーションだけでなく、宿泊・飲食施設などさまざまな地域のコンテンツを充実させなければならない、ということを行政側も役割と認識して、実際『こういう機能を組み込んだまちづくりができないか』という相談を自治体から頂いてます。」

 観光地づくりの具体的な実績として、2021年春にオープンさせた和風旅館風ホテル「Azumi Setoda(アズミ セトダ)」(広島県尾道市)がある。「しまなみ海道のルートにある生口島に4年ほど前から当社のメンバーが関与しています。アマンの創業者エイドリアン・ゼッカ氏もロケーションに一目惚れし、自ら島を回って『ここに日本風旅館を造りたい』と動いたほど。しかし、外部の人間がいきなりやって来てボンと造るのではなく、地域との融合を図りながらまちづくりも考えるべきで、地元のしおまち商店街とのワークショップ開催や、旅行商品・コンテンツの作成などを当社がサポートしています。

ライバルは「バンコク」「シンガポール」「上海」

今後の展望について、井坂氏自身どう描いているのだろうか。

「この5年間でようやく地域の方々に、SBCは信頼されるようになりました。もともとせとうちDMOの目標は『世界に冠たる観光地になる』なので、私たちがライバル視するのは、国内の観光地ではなく、アジアのバンコクやシンガポール、上海など超有名なデスティネーションで、彼らと肩を並べる存在になるのが目標です」と大きな目標を掲げる。しかしその一方、「その意味でプロモーションが先行し、『せとうち』が徐々に浸透しつつある中で、観光客がここを観光地として本当に満足するだろうかと考えれば、まだまだだと言わざるを得ません。観光事業者1人ひとりのレベルアップと、より一層の地域連携が必須です。もちろん、SBCもまだまだ果たすべきことがあるはずだと常に考えています」と、課題も掲げる。

 では、足りない点とは何だろうか。
「やはり観光が『産業』として成熟していない点です。将来の日本経済を牽引する成長エンジンと称えながら、観光業に身を投じようと考える人間が、実際どれほどいるでしょうか。海外では観光業を志す人が沢山います」。そして、「数年前までは他の産業よりも安定性に欠けていると見られがちでした。地元でも観光で働きたいと思いながら、やはり安定性のある製造業を選ぶというのが実情でした。徐々にですが、観光産業に対する考え方が変わりつつあったところが、コロナで逆戻りした状況です。

地域の事業者が高い目標を持って戦わなければ、そもそも海外の強豪たちとは戦えません」と訴えてやまない。

一気通貫の観光事業づくり

  では、日本の観光業を成熟させ、世界の強豪らと比肩する存在になるにはどうしたらいいのか。そのキーワードは「一気通貫」だという。  

「宿の世界では、星野リゾートが新しい風を吹き込んでいます。また大手旅行会社がこれまで商品の流通を牽引して来ましたが、ここへ来て転換期を迎えています。これに対し今はコロナ禍で大きな打撃を受けていますが、HISは流通に加えて自らコンテンツも持ち、観光の一気通貫に挑む、国内では数少ない事業者だと思います。世界ではドイツのトゥイが挙げられます。自ら船舶やホテルを持ち、最終的にプロモーションと流通まで手掛ける企業です。 

最終的に地域でこういう企業を誕生させることで、流通やプロモーション、コンテンツまでを一気通貫できる地域が、地域間競争に勝てると強く思います。その意味ではインバウンドにおいて外と内を直接的に結ぶ空港との連携は不可欠だと考えています。発地へプロモーションを行い、観光客を直接運び、そして地域のコンテンツで楽しんでもらう、これを一気通貫できれば、最終的に瀬戸内は世界に冠たる観光地へ成長できると考えています。SBCは主体的にその仕組み作りに携わって行きたいと考えています。」

海外に「瀬戸内」の魅力をアピール

ところで、素朴な疑問だが「瀬戸内」の魅力とは何か。「ズバリ『文化』ですね」と強調し、さらにこう続ける。

「世界屈指の『多島美』や海の幸・山の幸など、『ザ・観光』のコンテンツについては、すでに評価されているので、今後もどんどんと伸ばしていけばいいと考えますが、プラス・オンするならば、やはり『文化』です。瀬戸内の海運は内海文化として独自の進化を遂げています。江戸時代にいわゆる鎖国状態であっても、実際はこの地域では海外との貿易が途絶えることはなく、これに関連した文化が、 島々にたくさん落ちているのです。外国の人達が島々に立ち寄り、最終的に海路で大坂を目指したわけで、これにより培われたのが『せとうち文化圏』です。


 こうした「せとうち文化圏」は近年、「太平洋ベルト地帯」という名で工業地帯化され文化が忘れられて来ました。しかし観光客は、文化をベースにしたストーリーに引き寄せられます。食事1つ取っても、ストーリーを絡めればさらに奥行きのあるものになります。そしてストーリーを作り出すには『文化』を掘り起こすことが一番大事なことです」

 と「文化」の必要性を強調し、続いてこう持論も展開する。

「なぜ『多島美』が形成され島々に文化が宿るのか、なぜこの『食』が地域で残っているのか、などそれらを通して瀬戸内の文化が世間に理解されれば、より世界で戦える観光コンテンツになると確信します」

 ちなみに「多島美」と言えばエーゲ海が名高いが、井坂氏がお手本とするのはエーゲ海なのだろうか。これに関して意外な答えを返す。

「確かに瀬戸内は多島美を売りにしているので、景観はエーゲ海を意識しているようですが、文化を観光資源にしている意味で言うと、スペイン北部バスク地方のサンセバスチャンがお手本になるでしょう。食文化を地域あげて、わかり易いストーリーにして世界に発信しています。それに十分に応えるだけのコンテンツを作り上げている。観光にとってストーリーが命で、それをいかにして現代人に観てもらうかが腕の見せどころだと思っています。景観はまさに今を見ています、歴史は現在から昔を見ています。文化は昔から現在までのつながりを見ています。これらをストーリーに載せて観光客に見せられているところは、観光地として成功しているはずです」

それを体感できるところは、スペインのバルセロナでしょうか。以前は「太陽と海の街バルセロナ」でしたが、「今あるもの」と「過去のもの」、そして「続いているもの」を組み合わせて「アントニオ・ガウディなど建築の街」へと短期間で戦略的に変革しています。成功している観光地の戦略的活動を瀬戸内は参考にすべきです。

座右の銘として、井坂氏は「大衆は大義で動き、個人は欲求で動く」の言葉を大切にする。「大きなプロジェクトを推進するためには、大義と欲求を同じラインに並べていく必要がある。大義だけ叫んでいて、個人のことを考えなければ動いていきません。観光産業で言えば、成長産業と言っているが、個別の融資が厳しいなど、それをネガティブに捉えるのではなく整合性をどうやって取ろうかと前向きに考え、向きあっていかなければいけない産業だと思っています」と井坂氏は毎日肝に銘じながら「瀬戸内を世界に冠たる観光地に」に挑んでいる。

<<<前編を見る
>>>後編へ続く(近日公開)