【地域伴走 SHOWCASE】地方でも優秀な人材が獲得できる採用の秘訣とは?

当社が全国で行っている『伴走支援』について、それが生まれた背景や現状、そして未来の姿などを、実際の支援事例も交えながら、シリーズで紹介いたします。前回に引き続き、当社代表である田藏大地がリポートします。

人材採用の80%以上は入口で間違っている!

「人材不足」は、日本中の経営者の皆さまが頭を悩ませている共通の課題です。人材に困ったとき、まず相談するのはどなたでしょうか?自社の人事部長でしょうか?お抱えの顧問でしょうか?知り合いの経営者でしょうか?多くの場合、身近な人材エージェントに相談しているのではないかと思います。確かに人材エージェントは多くの登録人材を抱えて、貴重な人材を皆様に紹介してくれる頼りになる存在です。

しかしながら、人材エージェントに支援を依頼する時、渡された求人票にそのまま記入して、何の疑いもなく採用活動に入っているとしたら、あなたは既に採用活動に失敗しているかもしれません。私の経験では、支援前後で、実に80%以上は当初頂いた人材要件と変わります。理由は単純です。その殆どが、採用に必要な「準備」が不足していて、組織に必要な「人材」が正しく導き出されていないからです。

求人票に記載する前に、自社は何を目指して、どのような事業を行っているのか?(事業設計)次に、その事業遂行のためには、どのような機能と人材が必要なのか?(組織設計)そして、組織設計上、現有戦力で充足している機能、足りない機能は何で、どのような人材をどのように補強したいと考えているのか?(人材要件/採用設計)といった一連の流れを検討すること。この流れを汲むと、汲まないとでは、採用活動の結果は大きく変わります。

採用活動は「自社で働く価値」を売るマーケティング

多くの場合、欲しい人材のイメージは、社会通念やトレンドに縛られていて、ポジションを含むありきたりのイメージで伝わって来ることが多いのが実状です。CMO、CFO、COO、プロジェクトマネージャーなど…。採用責任者の方に具体的な質問を振り向けてみると、意外とそのイメージは自社の事業モデルや組織体制(組織風土を含む)などを反映したものではなく、ポジションや職責など、表面的な言葉の枠組みの中で伝えられてくる事が多かったりします。

その状況を反映してか、求人広告にも「事業本部長・800万円」「マーケティング責任者・1,000万円」などといったワードが並びます。確かに求職者にはわかりやすいのですが、果たして、地方就業に関心ある人々が、ポジションと年収で仕事を選んでいるのか?その答えはNOです。理由は、ポジション・報酬を最優先にするなら、地方の仕事を選ぶよりも、大都市での仕事の方が圧倒的に魅力があり、かつ確実だからです。多くの場合、地域を越えて、地方の仕事を選ぶ人の動機は違います。特に、最近はコロナ禍を経たワークスタイルの変化に併せて、仕事に求めるものも変化し、多様化しています。人材マーケットは複雑化しています。

だからこそ、欲しい人材を具体化し、その人材がいるマーケットを探り、そして、その欲しい人材に選んで貰えるように、自社で働く「価値」を商品化して、人材ターゲットに「刺さる」情報を発信する必要があります。つまり、これは「自社で働く価値」を具体化した商品(求人)を、欲しい人材に選んでもらうマーケティング活動そのものと言えます。

地方転職のトレンドは、ミッション・プロジェクト価値訴求型へ

採用活動の際に、採用側が必ず作成し、求職者が確認するのが「求人票」です。そして、長年、私たち人材支援事業者は当たり前のように、求人票のポジション・役割・報酬の設計に注力してきました。しかしながら、近年、これらの項目のみの訴求では、求職者に響かなくなってきています。特に、地方転職を考える人々には、この傾向が顕著です。

地方創生ブームの初期は、「社長の右腕」などの幹部ポストに人気が集まり、数多くの人材が地方へと旅立っていきました。年収ゾーンも1000万円以上もざらで、地域内の同等のポストとの賃金差が年200~300万円くらいの開きはあったものの、中途採用の経験が浅い地方の中小企業では期待値を込めての採用を行っていました。ただ、その転職者の多くにとって、必ずしも幸せな結果ばかりではなく、1~2年で地方を離れる人材も少なくありませんでした。原因は色々ありますが、優秀な人材でも、大都市や大企業の中で培われた仕事の進め方や価値観が、必ずしも地方企業におけるそれらと同一ではなく、そのズレを採用側と人材側の双方で修正できない現実が多く見られました。

そこから数年、地方転職における市場環境は大きく変わりました。前述の通り、新型コロナによる労働環境の変化や価値観の多様化により、報酬は多少低く、生活は多少不便でも、自然豊かな環境の中、社会的価値を生むような仕事に携わりたいという人は多くなりました。また、以前は50代後半以上での地方転職意向が強かったのですが、コロナ禍を経て、最近では若い世代も地方転職に関心を持つ人が増えています。ポジションにも以前のように拘らなくなってきた印象です。年代に限らず、よりミッションやプロジェクトの意義や価値を重視する傾向にあり、自身が共感できるプロジェクトに参画して、キャリアを作っていきたいという人が随分と増えてきました。

ハローワークは、必ずしも採用チャンネルの最適解ではない

人材要件が固まると、採用活動に入ります。新卒採用以外の採用現場で、地方において重宝されている手段は「ハローワーク」と「コネ」です。両者ともコストも掛からず、相談できる方が地域にいるため、気軽に相談できるのがメリットですが、この2つに頼っている組織ほど、「人材採用が上手く行かない」と相談してくることが多い印象があります。

「ハローワーク」は、スタッフレベルの採用として有効ですが、引く手数多な人材は余り利用しないので、幹部候補や幹部を採用したい場合には適していないと言えます。また、「コネ」での採用は、たまたま良い人材がいる場合は効果的ですが、そうでない場合は、むしろ、しがらみが生まれ、採用後、苦労を強いられることもしばしばです。一方、人材紹介会社や人材バンクなどの人材支援企業は、登録人材を抱えているので、採用マーケットとして頼りになりますが、人材要件を自社で固める必要があるのと、紹介手数料が掛かります。登録人材もそれぞれ特徴があるため、取捨選択が必要です。加えて、最近では、SNSをフル活用した採用活動も有効な手段となってきています。

このように一口に「採用」と言っても、様々な採用チャンネルがあり、それぞれに強み弱みがあります。適切な準備プロセスを経て導き出された人材要件に対し、複数の採用チャンネルを組み合わせ、その最適化を図りながら、採用活動を進めること(採用設計/採用運営)が、採用を成功させる為の必要条件と言えます。

職務経歴書の過信は命取り

採用の難しさを語る上で、意外と気付きにくいのは、職務経歴書の扱いです。殆どの場合、職務経歴書は求職者の評価プロセスにおいて重要なポジションをを占めています。ただ、職務経歴書は、求職者自身のプレゼンテーション資料です。客観的な判断に基づくものではなく、極めて主観的に作成されるものです。当然、誰しも自分をよく見せたいという願望があるので、長所は大きく、短所は削除します。そして、時には事実でないことも記載します。

もちろん、多くの経営者や採用責任者はこの事実に気づいているはずですが、採用活動に入ると意外と忘れてしまいがちです。そして、職務経歴書をベースに様々な質問をして、頭の中に出来上がった候補者のイメージに、自らを「納得させて」採用をしています。世渡りがうまかったり、転職がうまい人は、セルフプレゼンテーション力に長け、情報の出し方も優れている為、採用側が気づかないうちに誘導されています。また、人材エージェントもその辺りのテクニックを候補者に伝授したりしています。

これら一連の事情を理解していると、職務経歴書の見方が変わります。ひとは自分の弱みを隠したり、見栄を張ったりしたがるので、内容に「特異点」があると、その裏に、その人物の本質が隠れていたりします。特に、中小企業や地方自治体における採用では、採用者ひとりの組織のおける重みが大きくなるので、慎重に採用をしなければなりません。この「特異点」を掘り下げて行く事が、採用してはいけない人物をスクリーニングする重要なポイントになります。

多面的評価や事業や組織、地域との相性検証も忘れずに

採用活動において、書類選考と一回の面接で採用を決定することは稀だと思います。特に、中途採用となると、採用者にある程度の権限と責任を与えることになるため、意思決定は慎重に行わなければなりません。もし、1回の面接での採用決定が常態化しているとしたら、貴社の採用方法を見直す必要があるかもしれません。

私たちが採用支援を行う際は、メンバーを変えながら最低3回以上の面接(面談を含む)を前提に支援を行っています。同時に、前述の事業設計と組織設計に照らし合わせて、候補者が組織に合っているか徹底的に洗います。候補者の過去の経験値やスキルが、支援先の事業の中で求める適性に適合しているかどうか?また、候補者の性格やメンタリティが、現体制において、上司や同僚・部下、地域との関係性で良い影響を与えてくれそうかどうかなど、様々な観点から検証しています。これは、ひとりの人物(クラッシャー)の加入で、組織が崩壊の危機に瀕する場合もあるからです。

ただ、残念ながら複数回かつ複数名による面談でも、候補者の本質を見抜けない場合もあります。このため採用人材の重要性次第では、私たちは実践的な選抜手段(トライアウトなど)や、飲み会などを活用する場合もあります。最近では、副業や兼業から入って貰って、事業適性や組織との相性を探るような手段も用いています。働き方の多様化など、働き手の意識も変わりつつある為、こういうトレンドを活用することも、組織づくりには重要であると考えています。

優秀な人材獲得と組織の成功を導くプロスポーツの『GM』発想

私たちは、組織再生や採用後のリカバリに対する支援も多かったため、地方の事業者および自治体の皆様が、採用後のミスマッチの対応に苦しむ現場を数多く見てきました。同時に、その支援過程を通じて、課題解決に向けたソリューションとして見出したのが、先に述べた事業設計に始まり、組織設計と採用設計を行い、運営支援を行いつつ、採用活動全体をマネジメントする手法です。

そして、私はその解決のプロセスが「ある仕事」に似ていると感じました。それは、私が長年関わっていたプロスポーツ業界における『GM』です。事業設計は「チーム戦略」、組織設計は「チーム設計(強化育成におけるチーム設計)」、採用設計&活動は「スカウト方針やスカウティング活動や契約交渉」、組織運営は「チーム運営」といった具合です。この全体のプロセスを、個別の最適化ではなく、トータルでマネジメントして、チームを成功に導くのが『GM』の役割となります。

一方、現状の人事や採用の世界は、専門業務や機能、事業者等で細分化され、人事や採用を含む組織づくりにおけるトータルでの取り組みは余り一般化されていません。つまり、地方に限らず、ビジネスの世界では組織づくりにおける『GM』不在の状況が続いています。本来の採用活動には、経営、事業統括、組織運営、人材採用など、様々な経験とスキルが求められます。それら組織づくり全体をマネジメントし、成果を上げるという『GM』的な発想が、地方の事業者や自治体の皆さまが優秀な人材を獲得し、成功する上でのキーファクターになると考えています。

私たちは、地方の皆さまが『GM』的発想を持ちながら、ポイントを押さえた採用活動を進めて頂くことで、ひとりでも多くの優秀な人財を獲得し、持続可能な組織づくりに成功して頂くことを願っております。また、そのような仕組みづくりの伴走をしたいと考えています。

 

■ 田藏 大地 プロフィール
一般社団法人地域人財基盤 代表理事
栃木県出身。Jリーグにて教育事業やメディア事業、インターネット事業などのスタートアップ、マーケティングを担当。2008年、地元栃木にUターンし、Jリーグチームの取締役に就任。プロ化と事業運営および営業を統括。その後、観光業界へ。ホテル開発運営会社のCOOを経て、宿泊・飲食・農業・ICT領域などのベンチャー投資やスタートアップ支援に携わる。2017年より政府系人材支援企業の日本人材機構へ。観光・スポーツエンタメ・農林水産・産業支援領域の責任者として、全国の中小企業・自治体、官公庁の支援実績多数。2020年7月より現職。