【事例紹介】失敗しない観光地域づくり法人(DMO)の作り方〜DMO立上げと登録編〜

こんにちは!地域人財基盤の藤城と申します。

私は地域人財基盤に入社する以前、宮古島の観光事業者で働いていました。一度、宮古島を離れましたが、その時のご縁から、昨年、一般社団法人宮古島観光協会の観光地域づくり法人(以下、DMO)登録に関わるきっかけをいただき、現在は宮古島市の地域活性化起業人(副業型)として、現場に寄り添いながら、課題解決に向けたサポートをしています。

地域が「稼ぐ力」を高めていく観光地経営において、DMOは地域の様々な課題を解決するために重要な役割を担っています。また、インバウンド需要の高まりと共に、地域集客や観光産業を牽引する存在としてDMOへの注目は年々高まっており、いまや持続可能な観光地域づくりにおいて欠かせない存在となっています。

この記事では、私がDMO登録まで支援させていただいた、宮古島観光協会での取組例をご紹介しながら、実際のプロセスやエッセンスをわかりやすくお伝えします。現在、「DMO立ち上げ」や「DMO登録」をミッションとして取り組まれているご担当者様の悩みや不安の解消に、少しでもお役立ていただければ幸いです。

担当者の突然の異動で現場がストップ!

宮古島観光協会は、もともと観光協会として長らく活動していました。そこに、宮古島へ出向中の観光事業者が地域を牽引する形で「宮古島をさらに発展させるための司令塔をつくろう」と尽力され、晴れて候補DMOとして登録されました。このように、民間や自治体からの出向者が中心となってDMOが立ち上がるケースは全国でも珍しくありません。

しかし、出向者は2〜3年で戻ることが多く、中心人物がいなくなった途端、残された現場のメンバーが舵取りを失い、DMOとしての準備や活動が停滞してしまうことがあります。今回、私たちが宮古島観光協会の支援に入ることになったのは、まさにこのようなタイミングで、宮古島観光協会のご担当の方から「DMO登録期限が目前に迫った中、アドバイスが欲しい」とご相談をいただいたことが、支援のきっかけでした。

支援最初の一歩目は「チームづくり」と「共通認識づくり」から

DMO登録を進める上での第一歩目となるのが、「多様な関係者によるチームづくり」です。これはDMOという組織が、その組織特性として、一部の人だけで方針を決めたりせず、地域全体が納得し、同じ方向を向いて観光地域づくりに取り組むことが求められているからです。

観光地域づくりでは、自治体や観光協会だけで完結するものではなく、宿泊業者、飲食店、アクティビティ関連の事業者、そして地元住民など、地域に関わるすべての人の“意識の足並み”をそろえることが、何よりも大切です。とはいえ、日常業務に追われ、地域事業者との対話が後回しになっている観光組織も少なくありません。実際、私たちが支援した宮古島観光協会でも、最初に取り組んだのはこの「共通認識づくり」でした。ここをしっかり固めることで、その後の施策がスムーズに進み、成果にもつながっていきます。宮古島観光協会では、この考え方をもとに以下のステップで支援を進めました。

  • ステップ1:DMOに対する理解の徹底

意外に思われるかもしれませんが、新たに担当になった方でも「DMOとは何か」を十分に理解していないケースは少なくありません。そこで私たちはまず、宮古島観光協会の役職員と職員向けの勉強会を実施し、DMOの目的・役割・使命・課題などについて丁寧に共有するところから支援を始めました。「DMOとして何を目指すのか」を理解することで、初めて地域の関係者に対して、自分たちの言葉で熱意をもって説明できるようになります。DMOについての理解が深まれば、さまざまなステークホルダーに説明することができる、“熱のある言葉”が生まれます。単純な“知識”ではない、その先のステークホルダーや実行を意識したアプローチが、当社の強みの一つです。

  • ステップ2:観光事業者との合意形成支援

DMOとしてどれほど優れた計画を立てたとしても、実際に観光地で動くのは地域の観光事業者であり、彼らの理解と協力がなければ、DMOの活動は前に進みません。

宮古島観光協会の場合は、私自身が以前宮古島に住んでいたこともあり、観光事業者の方々との繋がりがありました。そのため、これまで地域内で積み重ねてきた関係性を大切にしながら、観光事業者の皆さんと意見交換の場を設け、DMOの計画やその背景・意義を丁寧に共有しました。一方的な説明ではなく、対話を重ねて、事業者の皆さんが「納得感」と「意欲」を持って参画いただけるような意識のすり合わせを行うことが大切です。

DMOとして進むべき「ゴールの設定」

DMOの登録はあくまで通過点であり、最終的なゴールではありません。そのため、登録後にどのように地域の観光力を高め、持続可能な観光地経営を実現していくのか、いわば「次のステップ」を見据えたゴールの設定が必要不可欠です。

そのゴールは言うまでもなく、地域ごとにまったく異なります。もしゴールの設定を誤れば、そこから逆算して策定されるアクションプランも的外れなものになってしまうので、私たちが支援に入る際には、このゴール設定は慎重に進めるようにしています。それを踏まえた上で、宮古島観光協会では、次のようなステップで進めました。

  • ステップ1:ゴール設定の一歩目は「現状分析」

最初に取り組むのは、徹底した現状分析です。 観光庁が示すKPIを意識しながら、今後目指すべきゴールやマイルストーンとそれぞれの数値を議論しました。 学術的なアプローチやコンサルティング的なアプローチに偏ると、リアリティが失われ、共通理解も進まないため、わかりにくい複雑な分析ではなく、なるべく実業目線による「事実」に基づいた分析を意識しました。

  • ステップ2:“今の課題”に即した計画へアップデート

DMO登録には「観光地域づくり形成・確立計画」という計画書の提出が必要です。これは単なる書類ではなく、地域の観光ビジョンを描き、そこに至るまでの戦略を整理するための重要なプロセスです。しかし、宮古島観光協会が候補DMOであった当時に作成した計画の内容と、登録作業を進める中で見えてきた現状の課題の間にはズレが生じていました。そこで、まずは最新の課題を整理した上で、“今だからこそ必要な計画”へとアップデートを図りました。

  • ステップ3:地域の特性を踏まえたKPIの設定

DMOあるあるとして、KPIの設定において、観光庁の必須KPIのみを追っているDMOも多いのですが、本質的には地域として目指すゴールやKGIの設定と、その実現に向けた戦略的な方針、そして、それに紐づくKPIの設定といった考え方が重要です。宮古島観光協会では、既に発生しているオーバーツーリズムによる住民意識の変化に加え、沖縄特有の「家族・知人との絆を大切にする文化」や、幸福度の高い暮らしを重視する価値観などの、地域課題や文化的背景を踏まえ、「住民満足度」という独自の指標を加えました。これは「地域の満足なくして、観光地としての発展はない」という、宮古島ならではの理念に基づいています。

(「住民満足度」は申請当時は必須KPIではなかったものの、現在は更新されたDMO登録要件において必須KPIに加わっています。)

美しい自然だけでなく、その土地にある「文化」も守るべき大切なものです。

私たちが展開する「DMO立上げと登録の支援」

以上、私たちが宮古島観光協会でのDMOの登録に携わった際のプロセスを色々と記載させて頂きましたが、実際には、ここに書き切れるような単純なものではありません。ただ、重要なエッセンスの一部を、ここでお伝えさせていただきました。ひとつひとつの課題に向き合いながら、地域の皆さんと何度も意見を交わし、共に悩み、考え抜いた結果、宮古島観光協会は今、晴れて「登録DMO」となり、宮古島の観光地域づくりのために奔走しています。そして、私たちも、引き続き、支援に携わらせていただきながら、職員や地域の皆さんと更なる観光地経営機能の強化に邁進する日々です。地域の未来に本気で向き合う人たちと、同じ熱量で走る――それが、私たちのスタイルです!

これまで私たちは、全国各地でDMOの立上げ・登録・更新をサポートしてきましたが、最大のこだわりは、「机上のプラン」に終わらせないことです。地域の現実に即した戦略・計画と持続可能な組織体制、そして、関係者が本当に腹落ちする形での合意形成まで含めた「実行支援」という形の支援にこだわっています。DMO登録は、あくまでスタートライン。DMOが正しく機能すれば、日本の地域の未来は大きく変わります。地域の未来を一緒に描き、形にしていきましょう!

宮古島観光協会のお二人(右)と弊社藤城(左)

藤城秀昭(一社)地域人財基盤 マネージャー
新卒でJTBに入社後、国内旅行の企画造成、仕入を担当。退職後は沖縄県宮古島市へ移住をし、観光客の受入整備や観光協会、宮古島市観光戦略委員、その他協力会の理事等を務め、その後も一貫して観光業界に身を置き続け、2024年4月に一般社団法人地域人財基盤へ入社。現在は宮古島観光協会をはじめ、全国のDMOでDMO事業に対するハンズオン支援者として現地に入りながら支援をおこなっている。