DMO NAGASAKIが世界的観光地を目指して取り組んだ「観光地マーケティング」

現在、私は一般社団法人長崎国際観光コンベンション協会(以下、DMO NAGASAKI)に所属をしながら、一般社団法人地域人財基盤(以下、地域人財基盤)に出向という形で勤務をしています。DMO NAGASAKIは、今でこそお陰様で、さまざまな自治体から数多くの問い合わせをいただけるまでに成長していますが(もちろん今も成長過程の段階です)、私が着任した2020年当時はまだ、私たちDMOが長崎市で果たす役割や目指す姿が描けておらず、事業計画や人員体制も整っていませんでした。 

そんなDMO NAGASAKIが大きく成長できた背景には、組織変革をはじめ、観光産業だけではない多様なバッググランドを持つメンバーが集結し、一丸となって取り組んだ様々な施策がありますが、ここでは、私が着任をしてから担当した観光地マーケテイング施策のご紹介と、DMOにおける観光地マーケティングの重要性についてお話したいと思います。私の話が、現場ご担当者様にとってほんの少しでも参考になれば幸いです。 

ビッグデータを取り入れることで見えてくるもの

観光庁が発行するガイドラインや資料を見ると、データを活用した戦略や施策の策定・実施などがDMO要件として提示されていましたが、私の着任当時はまだその確固たる方法論もなく、手探りの状態からのスタートでした。その中で、大きな効果があった取り組みの一つ目としては、全国の観光市場の動きをタイムリーに把握できるよう、日別・月別のビッグデータを取り入れた、というものです。このビッグデータでは、長崎市に訪れる観光客の旅マエから旅ナカ、旅アトの動きまで、データを通して可視化することができるというもので、長崎市の観光を盛り上げていく上では非常に大きな成果をもたらせてくれました。 

これら観光客の実態の“見える化”により、長崎の“何に”“いつ”興味を持って訪れているのかという、観光地マーケティングの上でとても重要な発見をすることができました。特に、観光まちづくりにおけるマーケティングの難しいところとして、「観光」という一言で括られているなかに、食や宿泊、体験、買い物、移動手段など、見るべきポイントが幅広く、多岐に渡ることが理由にあります。ビッグデータを取り入れて、お客様のインサイト(潜在意識)を解析したことで、旅行消費行動の裏にある長崎市に対する“期待”を把握することができ、長崎市としてどこに注力するべきかという、優先順位をつけることに繋がりました。仮説を持ちながらデータを俯瞰してみる、そこから自分たちの地域がまず何から段階的に強化していくべきか考え、戦略につなげることが、観光を盛り上げるための重要な一歩になると思います。 

また、旅マエの行動に注目することで、デジタルを中心としたプロモーションを正しく活用することにも繋がります。ビッグデータを解析すると、東京や大阪などの首都圏のような長崎市から距離のあるエリアから訪問してくれる人々は、旅行日の2ヶ月前ぐらいに旅のプランを考えはじめ、リサーチしていることが分かりました。同時に、長崎からさほど距離の離れていない福岡や佐賀などの近郊エリアにおいては、旅行の1週間〜2週間前にリサーチしていました。つまり、例えば夏の旅行プランをプロモーションする場合でも、対象エリアによって、それを打つべき時期や中身が大きく変わり、どのように見せるべきかの方向性が見えてきたのです。 

また、このデータを通して、タイムリーに全国の観光市場の動きを見ていた、という部分も大きなポイントです。長崎市を盛り上げるためには、長崎市だけを見ていてもその良し悪しは判断することができません。仮に長崎市が、前年比105%の観光客数まで伸ばすことができたとしても、ベンチマークしているエリアや市場が前年比120%だった場合は、観光市場における長崎市の成長率は芳しくない、という結果になります。あくまでも、市場と長崎市両方の同行を追うことが重要なのです。そしてそれらをタイムリーに見ていくことで、施策の軌道修正にも迅速に取り掛かることができます。 

その「データ」や「調査結果」は、信頼できるものか? 

もう一つの取り組みは、長崎市に訪れた方への調査(満足度や訪問動機、消費額等。以下「動向調査」)を抜本的に見直した、というものがあります。 

これは他の市町村でも多く見られることですが、以前の長崎市も、年に一度だけ、特定の時期に数日間の調査を行っていました。ただ、それでは、たまたまその調査を行ったときに、たまたまある特定の地域から大型のツアーが重なった場合など、得られる声やデータに偏りが生じてしまう可能性があり、そこで取れる情報は、長崎市の観光市場をより良くするための根拠として、信頼できるものとは言い難くなります。 

せっかく調査を行っていても、その調査方法が統計学的に正確性のない方法になってしまっていては、そこから見えてくる結果は意味のないものになってしまうどころか、誤った評価による誤った戦略策定につながってしまいます。活用目的を明確にし、正しく設計・調査することは基本中の基本ですが、忘れてしまいがちな重要ポイントといえます。 

動向調査のほかにも、「ブランド調査」というものがあります。これは外の目から見たその観光地域に対する想起や好感度、訪問意欲度を測る調査なのですが、2つの興味深いことがありました。まず1つ目は、観光客の約7割以上は概ね行きたい場所が決まっている(5つ程度)ということ。つまり、ターゲットとする観光客が旅行に行きたいな、と思ったときに、自分の地域が真っ先に浮かんでくること(=想起)が重要ということです。2つ目は、長崎市においての大変興味深い結果についてです。調査の結果、長崎市は総じて「イメージが良い都市」ではありました。ただ、良いイメージを持ってはいるが「行ったことはない」人が多数である、というように、街に対する好感度と訪問行動のギャップが大きいことが分かりました。

特に、首都圏在住の若い世代において、好感度と訪問行動のギャップが大きいということに着目をして、それらの属性を将来的に訪問してくれるチャンスのある層だと捉え、そこへのプロモーションも強化する、という新しい戦略に繋がりました。そしてそれらはしっかりと、HP閲覧数や旅行客数増加という結果として返ってきています。 

好感度の推移も地域を盛り上げるためには重要な指標ではありますが、それを活用して、将来的にこれからの長崎を伸ばしてくれる新たなマーケットを見つけた、という点においては、このブランド調査の活用の幅が広がる好事例だと思いますので、ご紹介させて頂きました。 

目指す将来を見据えて、正しく逆算できれば結果はついてくる。  

ここまで、地域まちづくりの成長を促す上で取り組んできた手法のいつくかお話をさせて頂きましたが、DMO NAGASAKIで私が特に意識をしていたのは、「現在(いま)に注目しすぎるのではなく、向かうべき将来を見据えて、そこから逆算をして組み立てて動く」ということです。地域として長期的視点を持って計画的に事業や施策に取り組み、成功例だけでなく失敗も含め、全て成長に欠かせない体験として、目的地に向けて積み重ねていくことができれば、結果は必ずついていくと考えています(信じたい)。現在地からの足し算方式だと、ゴールが見えにくく途中で迷子になってしまうことが多いので、目指したい姿からの逆算をすると、そのための必要な要素がくっきりと見えてきます。 

地域事業者の方々にとって有益なマーケティング情報を出来る限りわかりやすく、タイムリーに提供し、一緒になって考えるなど、DMOが地域事業者さんにとって信頼できるパートナーとなり、地域が持続的に稼ぎ続けるために汗をかく、ここにDMOの真の存在意義があると考えています。 

現在、私が出向中の地域人財基盤では、様々な領域のプロフェッショナルたちが、全国のDMOや地方自治体、および地域事業者の方々が抱える課題の解決をハンズオンでサポートしています。確かな客観的事実と将来予測に基づいた勝ち筋を作り上げていくマーケティング方法を模索中の、DMOをはじめとする、人的かつ専門的な課題を抱えている地域の方、地域人財基盤が推進する観光地マーケティング活動に参画してみたいという方は、是非一度お気軽にお問い合わせください。 

小林 寿樹(一社)地域人財基盤(出向)ディレクター
パリ・ミラノコレクションなどのブランドアパレル販売・店舗運営を経て、スポーツギアメーカーで主に経営企画やマーケティングに従事。その後、長崎市の観光資源の豊かさと、経営視点でのマーケティングによる観光地域づくりの推進に興味をもち、2020年3月に一般社団法人長崎国際観光コンベンション協会へ入職。2024年2月より一般社団法人地域人財基盤に出向し、出向元のDMO NAGASAKIの経営企画・マーケティング業務と、ほか複数のDMOに対する支援業務を担当中。DMO事業の最適化やマーケティング領域などを中心に、日々地域と向き合っている。